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完成形ではなくプロセスを見る──課題別に読み解く日本企業のABW導入事例

1 10月 2026

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【記事の要点】

  • ABWの成果を左右するのは、オフィスのデザインや制度そのものではなく、「組織として何を変えたいのか」という目的の明確さ。同じような空間を取り入れても、目的が曖昧なままでは働き方は変わらない
  • ブリヂストン、日立製作所、東芝、日建設計総合研究所の4社は、部門横断の共創、開発部門の連携、研究者同士の知の交流、組織の成長と世代交代と、それぞれ異なる課題から変革を始め、結果として異なるオフィスと働き方にたどり着いている
  • 4社に共通するのは、課題を起点にプロジェクトを始めたこと、抽象的なビジョンを日々の行動や空間にまで落とし込んだこと、従業員を設計と実行の担い手として巻き込んだこと、そしてオフィス開設後も改善を続けていること
  • その結果、ブリヂストンでは回答者の80%以上が時間や場所に縛られず自律的に働いていると答え、日建設計総合研究所では従業員が1日の活動に応じて働く場所を選ぶようになるなど、働き方そのものに変化が生まれている

はじめに

働き方変革やアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)の導入事例を見るとき、まず注目するのは完成したオフィスのデザインや導入された制度ではないでしょうか。しかし、同じような空間や仕組みを取り入れてもどの組織で同じ成果が得られるとは限りません。

プロジェクトの現場で成果を分けているのは、レイアウトの巧拙よりも、変革の出発点にある目的の明確さです。働き方を変える目的は企業によって大きく異なります。

研究開発で部門横断の共創を生み出したい企業もあれば、組織の成長や世代交代を見据えて自律的な働き方を根付かせたい企業もあります。他社の事例から学ぶべきは完成形そのものではなく、その企業が「何を変えようとしていたのか」、そして「そのためにどのようなプロセスを選んだのか」です。

本記事では、Veldhoen + Company(以下、V+C)が支援してきた日本企業のプロジェクトから、ブリヂストン、日立製作所、日建設計総合研究所、東芝の4事例を取り上げます。各社が抱えていた課題を起点に、変革の特徴と成功要因をひもといていきます。

課題から探す参考事例

組織が抱える課題 参考事例
縦割りを越えた共創を生み出したい ブリヂストン
開発部門から働き方を変えたい 日立製作所
組織の成長や世代交代に備えたい 日建設計総合研究所
専門性の高い研究者同士の交流を促したい 東芝
オフィス完成後も変革を続けたい ブリヂストン / 東芝
ハイブリッドワークで出社の意味を見直したい 建設計総合研究所

 

1. ブリヂストン:大規模な共創拠点から始まる組織風土の変革

ブリヂストンの事例は、約2,500名が関わる大規模な研究開発拠点を舞台に、オフィス、働き方、組織風土を一体で変えたプロジェクトです。

同社はイノベーションの加速に向けて、2015年から東京・小平地区の開発・生産拠点の再構築を進めてきました。その中核として2022年に開設されたのが「B-Innovation」です。社内だけでなく、企業、大学、研究機関、スタートアップ、行政など多様な関係者が「共感・共議・共創」を通じて新たな価値を生み出す拠点として位置付けられています。

社内のプロジェクトチームは、プロジェクトが本格的に始動する前から1,000名を超える従業員が理想のワークシーンを議論していました。ただ、その理想を日々の行動レベルまで具体的に描けていたのは一部の従業員に限られていました。このままでは新しい拠点が完成しても従来の働き方がそのまま持ち込まれかねない状況でした。

そこでV+Cは経営層を交えた「ありたい姿」の再整理から着手し、現状の働き方の分析、ABW導入可能性の検証、空間と運用の要件整理、階層別トレーニングまでを段階的に支援しました。

成功要因として挙げられるのは、「共創」という抽象度の高いビジョンを具体的な働き方や空間、日々の行動にまで落とし込んだ点です。加えて、「完成度70%」のオフィスを当初から狙い、新オフィスの入居日に完成品として従業員に引き渡すのではなく、可動壁やモジュール家具を採用し、使いながら環境を進化させていく余白をあえて残しました。

開設後は活動に応じて最適な場所を選ぶ意識が浸透し、オープンな環境によって部門を越えて互いの仕事が見える場面も増えています。働き方に関する意識調査でもスコアの向上が確認され、直近の調査では回答者の80%以上が、固定された時間や場所に縛られず自律的に働いていると答えています。

大規模な共創拠点を、単なる建物ではなく「組織文化を変える仕組み」としてつくった事例です。

>ブリヂストンのケーススタディを読む

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2. 日立製作所電力システム設計部:開発部門固有の仕事を起点にした働き方の設計

日立製作所大みか事業所の日立製作所電力システム設計部(以下、電力設)は全社共通の型を当てはめるのではなく、開発部門ならではの業務や課題を出発点に新しい働き方を設計した事例です。

電力設では、コラボレーションと共創力の向上を目的に2019年から働き方変革を開始しました。プロジェクトの途中では新型コロナウイルスの感染拡大に直面し、リモートワークを含む働き方の前提そのものが大きく揺らぐ中での取り組みとなりました。

プロジェクトでまず力を注いだのは、電力設の業務特性と現場が抱える課題の把握です。日々の活動や部門内外の連携の実態を丁寧に確認したうえで、目指す組織の姿、それを実現するための働き方、空間と運用を一本の線でつなげていきました。従業員の声を聞くだけで終わらせず、部門特有の課題に対する施策へ具体的に反映したことが、組織内の理解と納得感を生んでいます。

また、現状把握にとどめず、施策の検討、空間設計、効果検証の議論にまでつなげた点も重要です。その結果、オフィスという目に見える環境だけでなく、そこで働く人々の考え方や行動にも変化が生まれました。特に、現場の業務特性に合わせた丁寧なアプローチが部門全体の理解を得ながら変革を進めるうえで重要な役割を果たしました。

開発部門の仕事を丁寧に読み解き、現場の納得感を積み重ねながら働き方をかたちにしていく。部門単位で変革を進めたい企業にとって示唆の多いアプローチです。

>電力設のケーススタディを読む

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3. 東芝:研究者の専門性を尊重した、知が交わる共創環境づくり

東芝は、約1,000名の研究者が持つ高い専門性を尊重しながら、部門や専門領域を越えて知識が交わる共創環境を構築した事例です。

東芝は、従来の垂直統合型の研究開発モデルから一歩踏み出し専門領域や組織を横断して知を掛け合わせる共創拠点として、川崎市の小向事業所に「イノベーション・パレット」を構想しました。新しい研究開発拠点は2024年1月に稼働しています。

このプロジェクトにおける大きな課題は、それぞれに高い専門性と仕事へのこだわりを持つ研究者に次の働き方として定めたABWをどう理解してもらうかでした。そのために、新棟だけでなく既存の建物も含めて、研究者一人ひとりが1日をどのように過ごすのかを具体的に描く必要がありました。

V+Cは、研究所長やラボ長との調査・ビジョン策定からプロジェクトに参画し、研究者とのワークショップを通じてオフィスの設計要件を整理しました。開設の前年には各ラボの研究者によるプロジェクトチームを立ち上げ、コミュニケーションやトレーニングを展開しています。

特筆すべきは、ABWの導入を前提にせず、「イノベーション・パレットで何を実現したいのか」を変革の判断基準に据えた点です。研究者の個人作業や専門性を否定するのではなく、それぞれの知識が交わる機会を増やす。この考え方が新しい環境と働き方の設計を一貫して支えています。

稼働後は、1,000名を超える研究者が本格的にABWを実践しています。移転後の調査では、「ビジターを自信を持って迎えられる」「楽しい職場環境を生み出している」といった項目で改善が見られました。現在も働き方をマネジメントするチームを中心に、組織の変化に応じた改善が続いています。

研究者の強みである専門性はそのままに、知識が組織を越えて交わる条件を整える。研究開発型の組織が共創を目指すうえで、一つのモデルとなる事例です。

>東芝のケーススタディを読む

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4. 日建設計総合研究所:組織の成長と世代交代を見据えた、自律的な働き方への転換

日建設計総合研究所(NSRI)は、オフィス移転を組織の急成長や世代交代に対応するための「マネジメント変革の機会」として活用した事例です。

2006年の設立時には約30名だった組織は、2020年には約90名にまで拡大。将来的な人材採用を見据えるとより広いオフィスが必要になる一方で、組織規模に合ったマネジメントへの転換も求められていました。

さらに、設立時から組織を支えてきた第一世代が定年を迎える時期に差し掛かり、積極性や提案力といった文化を次の世代へどう引き継ぐかも継承するかも大きなテーマでした。

NSRIはコロナ禍でも比較的スムーズにハイブリッドワークへ移行していました。しかし、「どこでも働ける」という柔軟性はあっても、仕事の目的に応じて場所を意図的に選ぶという考え方までは組織全体に浸透していませんでした。

V+Cは、組織のありたい姿の整理からオフィス空間の要件設定、新しい働き方のトレーニングまでを支援しました。その際に重視したのは、外部のコンサルタントが一方的に変革を主導するのではなく、社内のプロジェクトメンバーが自ら変革を推進できる体制づくりです。

新オフィスの開設後は、従業員が1日の活動を見通したうえで、出社するか、在宅で働くか、オフィス内のどこで働くかを判断するようになりました。オフィスに集まる意義をより明確に感じられるようになったほか、自分の仕事や活動をより高い解像度で把握できるようになりました。

NSRIではその後、働き方、空間、什器などについて理想と現状のギャップを可視化する「NSRIワークプレイススコア」の開発にも取り組んでいます。変革を一過性で終わらせず、自ら測り、改善し続けようとする姿勢が強く現れています。

「どこでも働ける」という柔軟性を「目的を持って場所を選ぶ」という自律性へと一段引き上げた点に、この事例の価値があります。

>NSRIのケーススタディを読む

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4つの事例に共通するもの

4社が抱えていた課題も、実際に導入した空間や施策も、それぞれに異なります。それでも変革のプロセスを振り返ると、いくつかの共通点が浮かび上がります。

まず、いずれの企業も、オフィスを変えること自体を目的にしていません。縦割りを越えた共創、開発部門の連携、研究者同士の知識共有、組織の成長と世代交代。プロジェクトの出発点には、常に組織として解決したい課題がありました。

次に、「共創」「自律」「イノベーション」といった抽象的なビジョンを、具体的な活動、空間、運用、そして日々の行動にまで落とし込んでいます。ビジョンが掛け声で終わるかどうかは、この翻訳作業の丁寧さに大きく左右されます。

さらに、従業員を新しい働き方の「説明を受ける側」ではなく、設計と実行の担い手として位置付けています。サーベイやインタビューで声を集めるだけでなく、その内容を実際の要件や施策に反映したことが、変革への納得感につながりました。

そして、オフィスの開設をゴールにしていません。新しい環境を実際に使い、働き方を評価し、組織の変化に合わせて改善を重ねています。私たちの経験でも、変革の真価が問われるのは、むしろ開設後の数年間です。

 

関連する課題に取り組んだ海外事例

本記事で取り上げた課題に近いテーマは海外のV+Cのプロジェクトにも見られます。参考として、いくつかの事例をご紹介します。

オランダの半導体企業NXPでは、研究開発、コーポレート、デジタルといった職種ごとの働き方を分類したうえで、一つのワークプレイス戦略へと統合しました。業務特性の違いを尊重しながら、組織全体として一貫した環境をつくりたい企業にとって参考になる事例です。

アメリカのテクノロジー企業ActionIQでは、ハイブリッドワークに関する判断がリーダーごとに異なり、社内に不公平感や混乱が生じていました。そこで調査とリーダーシップワークショップを通じて、柔軟な働き方に関する全社共通の方針を策定しています。オフィス移転よりも、リーダー間の合意形成や共通原則づくりに課題を感じている企業には特に参考となる事例です。

また、複数の国や拠点にまたがるチームの一体感を高めたい企業には、柔軟性と国際的な協働の両立に取り組んだSennheiserの事例も参考になるでしょう。

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まとめ:「何を変えたいのか」から始まる働き方変革

4社のオフィスや働き方がそれぞれ異なるのは、目指していた組織の姿が異なるからです。

ケーススタディから持ち帰りたいのは、完成したレイアウトやルールそのものではありません。組織として何を変えたいのか。その変化を実現するには、どのような行動が必要なのか。空間、制度、テクノロジー、マネジメントはその行動をどう支えられるのか。こうした問いから自社に適した働き方の輪郭が見えてきます。

V+Cは、あらかじめ用意された働き方を組織に当てはめるのではなく、それぞれの組織に適した働き方を、経営と従業員がともに考え、実行し、進化させていくことが働き方変革の本質だと考えています。

 

よくある質問(FAQ)

Q. ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)とは何ですか?

A. ABWは、集中作業、協働、対話、学習といった業務の内容(アクティビティ)に応じて、働く場所や時間、ともに働く相手を従業員が自ら選ぶ働き方です。空間(Bricks)、テクノロジー(Bytes)、人の行動や組織文化(Behaviour)を一体で見直す点に特徴があります。V+Cは、1990年代からABWの考え方を提唱・実践してきたオランダ発のコンサルティング会社です。

Q. 研究開発部門でもABWは機能しますか?

A.  本記事で紹介したブリヂストン、日立製作所 電力システム設計部、東芝は、いずれも研究開発・設計部門での取り組みです。研究者の個人作業や専門性を否定するのではなく、知識が交わる機会を増やすという考え方で設計することで、専門性の発揮と部門横断の共創を両立させています。

Q. ABW導入を成功させるポイントは何ですか? 

A. 4社の事例に共通するポイントは4つあります。オフィスを変えること自体を目的にせず、組織課題から始めること。抽象的なビジョンを具体的な行動、空間、運用に落とし込むこと。従業員を設計と実行の担い手として巻き込むこと。そして、開設後も評価と改善を続けることです。

Q. ハイブリットワークを軸に、オフィスの役割はどう見直せばいいですか?

A.  日建設計総合研究所(NSRI)の事例が参考になります。同社は「どこでも働ける」柔軟性を、「目的に応じて場所を選ぶ」自律性へと転換しました。その結果、従業員が1日の活動を踏まえて出社か在宅かを判断するようになり、オフィスに集まる意義もより明確になっています。 

Q. ABWの導入にはどのくらいの期間がかかりますか?

A. 組織の規模や対象範囲によって大きく異なります。本記事の事例でも、ビジョンの策定から空間設計、トレーニング、開設後の定着と改善まで、複数年にわたって取り組んでいるケースが少なくありません。オフィスの開設は通過点であり、その後の運用と改善まで含めて計画することが重要です。

私たちはお客様と協力し、ワーカーの働き方が豊かになるスペースと人のつながりを通じて、組織の一員として誇りを持って働くことができる独自の文化と環境の構築をサポートします。