

柔軟な働き方は定着したか
2019年にVeldhoen + Companyが日本で活動を開始してから5年が経ちました。当時作成したABWの説明動画を振り返ると、この5年間で大きく変わった点として、働き方を考える際に“時間と場所”を含めて考えることが当たり前になったことが挙げられます。
2020年のパンデミックをきっかけにリモートワークが急速に普及し、現在も多くの企業が固定的な勤務形態から、より柔軟な働き方へとシフトしつつあります。ハイブリッドワークが一般化し、ワークライフバランスへの関心もこれまで以上に高まっています。オフィスへの出社の有無が採用条件に記載されることを、5年前に想像できた人はどれほどいたでしょうか。
ハイブリッドワークをはじめとする“働く場所の柔軟化”は、ABWという考え方の普及を後押ししたことは間違いありません。
ABWの基本理念
アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)は、業務(活動)内容や個人の嗜好、ライフスタイルに応じて、働く場所や時間を柔軟に選択できる統合的なワークスタイル戦略です。ABWは単なるオフィスのレイアウト変更にとどまらず、社員一人ひとりが日々の行動を通じて組織文化を育む行動変容を促進するものです。これにより、人的資本経営においても重要な役割を果たします。
その根底にあるのは、社員が自らの業務に最適な環境を自律的にデザインし、効率的かつ効果的に業務を遂行することです。個人が主体的に選択することで、無駄を省き、活動の生産性や働きやすさの向上を目指すことができます。
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ABWの現在地:WorkplaceからWorkingへ
日本でも、新しいオフィスのオープンを伝えるプレスリリースには「ABWを導入」という言葉をよく見かけるようになり、ABWという言葉は広く認知されるようになりました。しかしながら、多くの場合「ABW=多様な家具のしつらえを持つオフィス」として使われているように感じられます。動画でも触れたように、一人ひとりが時間や場所を意識して働くための”行動変容”の重要性については、まだ十分に認識されていないのが現状です。
例えば、「オフィスをリニューアルしたものの結局固定席化してしまった」という、フリーアドレス全盛期から続くお悩みをいまだに耳にすることが多々あります。確かに、オフィスレイアウトは電話ブースや集中ブースなど、ハイブリッドワークに対応した"ABW" (Activity Based Workplace) にはなりつつありますが、Activity Based Working への移行はまだ道半ばと言えるでしょう。
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なぜABWが人的資本経営に貢献するのか
2019年は「働き方変革」が働き方をめぐるトレンドワードでした。しかし2025年現在、その焦点は「人的資本経営」にシフトしています。この経済産業省が主導する人的資本経営の特筆すべき点は、仕組みや施策の整備の言及に留まらず、企業文化の定着において「働き方」が重要であると強調している点です。
これは、私たちVeldhoen + Companyが提唱してきた「働き方の変革」、つまり「行動変容」の意義そのものです。行動変容とは、従業員が日々の業務プロセスや働き方を意識的に見直し、改善していくプロセスを指します。
私たちは、働き方を目に見えない「組織文化」「企業価値」「自社のブランド」を日々の行動として具体化し、繰り返し体現するための触媒として考えています。例えば、"Just Do It" (とにかくやってみよう)をブランドメッセージとして掲げるNikeであれば、個人がその企業メッセージを日々の業務でも"とにかくやってみる"を実践し、結果的にそれが組織文化として定着することで、最終的に製品としてそれが顧客に伝わることがよいサイクルと言えるでしょう。
Veldhoen + Companyがクライアントと仕事をする際にも、まずは働き方を通じて目指すビジョンの構築からスタートします。これはコーポレートビジョンという大きな概念を働き方という日々の行動に繋ぐために必要なピースだと考えています。
日本の組織は人的資本経営を契機に、企業文化を育むための「行動変容」に取り組むことが求められているのです。
行動変容を阻む組織の壁:日本企業の課題と解決策
オフィスのリニューアルをきっかけに働き方の見直しに着手する事例は多くみられますが、この場合、総務部門(ファシリティ管理部門)、人事部門、情報システム部門などを含めたプロジェクトチームが発足することがほとんどです。
しかし、このような場合の課題は、オフィスのリニューアル後に行動変容を担う部門が不明瞭になりがちな点です。行動変容には継続的な行動変容の計画の管理と実行、そして従業員とのコミュニケーションが不可欠ですが、これを担当する既存の部門が存在しないことが多いのが現状です。
欧米では、ワークプレイスの管理と併せて、Employee Experience(従業員経験価値)やCommunity Support(コミュニティ支援)を専門に管理する部署が設置されていることが多くあります。例えばGoogleやMicrosoftといった大企業では、従業員のエンゲージメントを高めるために独自の部門を設けています。これらの部門は、エンゲージメントの向上とともに、組織文化の醸成をミッションとして担っています。ABWの導入においてもこうした行動変容や文化醸成を担う部署が必要です。
本質的な行動変容で組織文化を変える
オフィス環境、ITシステム、行動変容を組み合わせて、自分にとって最適な働き方を自ら考えること、これがABWの根本です。もちろん、これには高いスキルと姿勢が必要になります。同時に組織は、それを可能にする裁量と信頼を与えることも必要になります。
オフィスか在宅かといった場所の議論を超え、本質的な行動変容を実現するための第一歩を、私たちVeldhoen + Companyとともに踏み出しましょう。