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AIで「浮いた時間」はどこへ向かうのか──オフィスと仕事の構成比の変化

21 8月 2026

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【記事の要点】

  • AIによってオフィスの存在意義そのものが大きく変わったと考えている企業は少なく、むしろ多くの組織が着目しているのは、個人作業から複数人のコラボレーションへと向かう「仕事の構成比」の変化である
  • しかし、この時間の再配分は自然発生的には起きない。浮いた時間を放置すれば日常業務に吸収されるため、組織による意図的な設計が必要
  • オフィス戦略は「オフィスをどう設計するか」から始めるのではなく、「どのような組織を目指すか」から逆算し、KPIもオフィス単独ではなく既存の経営指標の中に位置づけると良い
  • オフィスに向けられる問いは、「効率よく作業できるか」「共同作業がしやすいか」を経て、「人にしかできない組織能力を生み出せるか」へと変わりつつある

はじめに:AIが変えているのは「オフィス」ではなく「仕事」である

前編では、世界の企業7社の発信から、AI時代のオフィスに共通する3つの視点、「集まる理由がある場所」「人材育成の場」「意思決定を速くする場」を見てきました。いずれの企業も、AIそのものではなく「AIによって組織がどう変わるか」を起点にオフィスを語り直している点が共通していました。

後編では視点を変え、AIが実際に何を変えているのかを仕事の中身から見ていきます。結論から言うと、AIが変えているのは「オフィスという場所」そのものではなく、「仕事の構成比」です。仕事の構成が変わるからこそ組織のあり方が変わり、その結果としてオフィスに求められる役割も変わっていく。この順番で考えることが、後編を通じての軸になります。

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3. 仕事の構成比はどう変わっているか

V+Cではこれまで、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の考え方に基づき、「どのような活動を行うのか」を起点にワークプレイスを設計してきました。一日の仕事を整理すると、例えば次のような活動に分けることができます。

  • 集中を必要とする個人作業(情報収集、リサーチ、分析、資料作成など)

  • 集中を必要としない個人作業(メールやチャット対応、会議前の準備など)

  • 少人数での対話や1on1

  • チームでの議論や意思決定

  • チームでの知識共有や勉強会

  • 専門的な作業や顧客との対話 など


従来のABWでは、これらの活動に応じて「どこで行うのが最も効果的か」を考えることが基本でした。個人集中作業は静かな個室ブースへ、チーム議論はオープンなコラボレーションエリアへ、というように、活動と空間を対応させる発想です。

AIの存在は、この「活動そのものの中身」を変え始めています。例えば次のような変化はすでに多くの職場で起きています。

  • 会議前の情報収集をAIが数分で整理する

  • 提案資料のたたき台をAIが作成する

  • 会議後の議事録やToDoをAIが自動でまとめる

こうした変化によって、個人作業に費やす時間は確実に短くなります。そして事例を見ると、そこで生まれた時間は、人同士の相互作用(=コラボレーション)が価値を生む活動へ再配分されています。

  • 顧客とのより深い対話

  • 部門横断での意思決定

  • 若手社員へのコーチング

  • 新規事業のアイデア創出

  • 複雑な課題についてのディスカッション

つまり、仕事全体に占める活動の構成比が大きく変化しつつあります。AIが「仕事」を奪うのではなく、「仕事の中身」を変えている。この視点に立つと、オフィスに求められる役割も自然と変わってきます。個人集中作業のための静かな席の需要が減る一方で、対話や意思決定のための空間、そして偶発的な相互作用が生まれる余白の価値はむしろ高まっていくと考えられます。

working in office working in office

4. ただし、浮いた時間は自然に価値ある活動に向かうわけではない

AIによって個人作業の時間が減る分、対人のコラボレーションが重視される流れは強まりつつあります。しかし、この「時間の再配分」は自動的には起きません

パーソル総合研究所が2026年に発表した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」によれば、生成AIを活用したタスクでは平均16.7%の時間削減が確認された一方、実際に自分の業務時間が減ったと実感している利用者は全体の約25.4%にとどまります。さらに、削減できた時間のうち6割以上は結局「仕事」に再投下されており、その中心を占めるのは日常的なルーティン業務です。付加価値の高い業務や新しい挑戦へ時間が向かうケースはむしろ少数派だという実態が示されています。

この傾向は日本に限った話ではありません。全米経済研究所(NBER)が発表した研究では、AIの影響を強く受ける職種ほど、労働時間がむしろ長くなる傾向が報告されています。AIが仕事を減らすのではなく、空いた分だけ新しい仕事が流れ込んでくる構造です。

言い換えれば、「AIが個人作業を減らし、その時間が対話や意思決定に回る」という変化は、放置していても起きるものではありません。組織が意図的に設計して初めて起きる変化です。浮いた時間の使い道を現場の裁量や個人の心がけに委ねている限り、時間は目の前の日常業務に静かに吸収されていきます

だからこそ、前編で触れた「AI活用の成果の67%は組織要因で説明される」というMicrosoftの指摘は、単なる一般論ではなく、この構造を裏づけるものとして読むことができます。浮いた時間を「何に使うべきか」を経営が自ら示し、それを体現する場としてオフィスを設計して初めて、仕事の構成比の変化は意味を持ちます。

 

5. オフィスを考える前に、「どのような組織を目指すか」を問う

「AI活用の成果の大部分は個人ではなく組織の設計によって説明される」ことを前提とすると、人の役割分担や意思決定のプロセス、チームの連携を含めて組織全体を見直した企業こそAIの価値を最大化できる、ということになります。

この考え方に立つと、オフィス・働き方プロジェクトで最初に立てるべき問いも変わります。「何席必要か」「どのようなレイアウトにするか」ではなく、まず立てるべきは、

「私たちは、人が集まることで何を生み出す組織を目指すのか。」

という問いです。これは抽象的な問いに聞こえるかもしれませんが、実際には組織の性質によって答えが大きく分かれます。

例えば、前編で見たAmazonやJPMorganのように「若手育成を競争力にしたい組織」であれば、必要になるのは先輩の判断プロセスをそばで観察できる空間や、意図的なペアワークを促す座席配置です。一方、Salesforceのように「部門横断で意思決定のスピードを上げたい組織」であれば、必要になるのは異なる職能のメンバーが偶発的に顔を合わせる動線や、即興の議論を後押しする小規模な打ち合わせスペースです。

同じ「AI時代のオフィス」という括りでも、目指す組織能力が違えば、必要な活動も空間もまったく異なります。だからこそ、オフィスは経営戦略の結果として設計されるべきものであり、出発点ではありません。


KPIのあり方にも影響はあるか?

オフィスの目的が変われば、成果を測る指標も変わるべきだという考え方は自然ですが、だからといってオフィス単独の新しいKPI体系を一から作る必要はありません。

出社率や席利用率、会議室利用率といった従来の利用状況指標は、今後も運営上の指標として一定の役割を持ち続けますが、それだけでは「オフィスが組織に何をもたらしたか」までは見えてきません。重要なのは、オフィス独自のKPIの新設ではなく、意思決定のリードタイムや人材育成の進み方、エンゲージメントといった、すでに経営が追っている組織指標の中にオフィスの貢献を位置づける視点です。

「どれだけ人を集めたか」ではなく「集まることでどんな価値が生まれたか」を、既存の経営指標の文脈で捉え直す。この発想の転換自体が、AI時代のオフィス戦略における一つの実践的な結論だと私たちは考えます。

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6. おわりに:オフィスに向けられる「問い」の変遷

ここまでの議論を、オフィスに向けられてきた「問い」の変化として整理してみます。

かつて、オフィスが個人の作業場所だった時代、そこに向けられていた問いは「効率よく作業できるか」でした。デスクの配置や動線、静音性といった要素が重視されていた時代です。

ハイブリッドワークが定着し、オフィスが「コラボレーションの場」と位置づけられるようになると、問いは「共同作業がしやすいか」に変わりました。オープンな会議スペースやコラボレーションエリアの設計が重視されるようになったのはこの時期です。

そして今、AIが情報整理や資料作成の多くを担うようになった時代に向けられている問いは、これらとは質的に異なります。それは、前編記事で見た3つの視点──集まる理由の設計、人材育成、意思決定の高速化──に集約される、「学習・意思決定・文化継承・体験という、人にしかできない組織能力を生み出せるか」という問いです。

この問いの変化は、オフィスに求められる価値の重心が移りつつあることを示しています。観察して数えられるもの(デスクの稼働率や会議室の予約状況)から、観察だけでは測れないもの(学習の質、意思決定の速さ、文化の継承、信頼の形成)へ、という移り変わりです。同じ部屋に人がいても、そこに信頼関係がなければ本音の議論は生まれませんし、若手が先輩の判断プロセスから学ぶには、単なる同席以上の意図的な関わりが必要です。オフィスという「ハコ」は、その価値が生まれるための必要条件であっても、十分条件ではなくなりつつあります。

V+Cでは、これまでABWの考え方を通じて「活動から働く環境を設計する」ことを支援してきました。AI時代を迎えた今、その考え方は古くなるどころか、空間設計と組織設計を統合的に扱う必要性という形で、むしろ重要度を増しています。

これから問われるのは、「何日出社するか」ではありません。人が集まることで、どのような組織能力を作りたいのか。その問いこそが、これからのオフィス戦略、そしてAI時代の組織づくりの出発点になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 「仕事の構成比が変わる」というのは、結局オフィス回帰の理由付けに使われているだけではありませんか?

A. その見方は成立し得ます。ただし重要なのは、構成比の変化を主張する企業の多くが、変化後にオフィスで行うべき活動を具体的に定義していることです。抽象的な「コラボレーション」ではなく、意思決定や育成といった測定可能な活動として語られている点は、単なる出社回帰の口実とは区別して評価する余地があります。

Q. オフィス単独のKPIを作らないという考え方は、実務上は何をすればよいのか分かりにくくないですか?

A.  具体的には、新しい測定項目を増やすのではなく、すでに経営が追っている指標(意思決定のリードタイムや人材の定着率、エンゲージメントスコアなど)に、オフィスでの活動データやMicrosoft PlacesやViva Insightsのような働き方データを重ね合わせて分析することを指します。オフィス部門が独自の物差しを持つのではなく、経営指標の中にオフィスの貢献を接続する、という考え方です。

Q. 各社の事例に共通する視点は何ですか? 

A. 「集まる理由の再定義」「人材育成」「意思決定の高速化」という3つの共通点が見られます。

Q. 中小企業やスタートアップでも、この考え方は参考になりますか?

A. 参考になります。むしろ組織規模が小さいほど、「何のために集まるのか」を明確に定義しやすく、この記事で紹介した問いの立て方(オフィスではなく組織から設計する)はスピーディーに実践しやすいと考えられます。 

Q. 実際には「AIで浮いた時間が減らない」という調査結果もあると聞きました。記事の前提と矛盾しませんか?

A. 矛盾しません。むしろその調査結果こそが、本記事の核心的な主張を裏づけています。浮いた時間の使い道を現場任せにすると、時間は日常業務に静かに吸収され、対話や意思決定といった価値ある活動には向かいません。だからこそ、浮いた時間の使い道を組織が意図的に設計し、オフィスという場でそれを体現する必要がある、というのが本記事の立場です。

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