「スロークック・ワークプレイス戦略」という言葉をみなさんは聞いたことがあるでしょうか？スロークック・ワークプレイス戦略は、Veldhoen + Company（以下V+C）のオーストラリアチームがUTSカレッジのプロジェクトで新しい働き方を導入支援を行う際に活用されました。その内容について、オーストラリアでシニアコンサルタントを務めるEoin Higginsが解説します。
シドニーにあるニューサウスウェールズアートギャラリーでWORKTECH Sydneyに登壇した際、セッションのモデレーターが私の担当したプロジェクトを「スロークック・ワークプレイス戦略」のケーススタディとして紹介しました。この表現は、V+Cがオーストラリアやニュージーランドのクライアントと一緒に働き方戦略に取り組むアプローチを的確に表していました。
私たちは、セッションの共同プレゼンターとして登壇したUTSカレッジのゼネラルマネージャー、アレックス・マーフィーとともに、ハイブリッドワークを前提に築き上げたABW導入までのプロセスを共有しました。
私たちのセッションの目的は、ワークプレイス戦略が単にオフィススペースの効率化だけでなく、組織の成長を促す手段の1つとして機能することを示すことでした。経営層の意見と従業員のボトムアップ的な参加のバランスを適切に維持することで、組織が置かれている激しい競争の激しい状況と働き方変革プロジェクトにおけるありたい姿との間のつながりをはっきりと描くことが可能です。このつながりによって、働き方が組織の目標を達成するために整理され、結果的にその組織で働くすべての人に利益をもたらすことができるのです。
UTSカレッジのありたい姿は、コラボレーション（Collaboration）、創造性（Creativity）、つながり（Connection）、そしてコミュニティ意識（a sense of Community）の4つの項目を実現するという "The 4Cs" として整理されました。これを働き方・ワークプレイス戦略に落とし込むには、単なるオフィスデザインという枠組みを超えて、新しい働き方がどのようにUTSカレッジの掲げる目標の達成を支えるかについて、役員が時間を投資して考え整理する必要がありました。これこそ、このプロジェクトに欠かせなかった「スロークック」の由来です。
ありたい姿という軸を一度明確にした後、プロジェクトは一気に加速しました。"4Cs" がプロジェクトの各段階における意思決定のフレームワークとなったからです。新しい働き方の導入・構築には多くの意思決定が必要になり、特に今日ではハイブリッドワークを導入するかも考慮する要素の1つとなります。このような変革プロジェクトを進めている最中では、何が優先事項か、何が判断軸か分からなくなることがあります。単なるキーワード以上の明確な「ありたい姿」は、意思決定のプロセスを支えてくれます。
例えば、UTSカレッジでは個人ロッカーの配置場所について多くの議論がありました。議論の焦点はロッカーのタイプや機能といったものではなく、どのようにロッカーを活用して人のつながりやコミュニティ意識を促進するかに当てられていました。またそのほかにも、ハイブリッド会議の実施方法やマナーに関する議論があり、創造性やコラボレーションが妨げられない方法が整理されました。
マーフィーとのセッションの後、私はこのスロークック・ワークプレイス戦略について振り返りました。この戦略はV+Cが行うアプローチの本質を捉えているのか？ 長期的な視点で働き方プロジェクトを遠隔かつスピーディに進める上で、あえて序盤の議論にゆっくりと時間をかけることは正しいのか？ 考えれば考えるほど、このアプローチは正しいと思うようになりました。
スロークッキングは前もって多くの準備が必要ですが、他の料理形式よりも少ないエネルギーを使用し、食材から最大の風味を引き出します。働き方・ワークプレイス戦略の文脈でも同様に、初期段階をスローペースにすることは後のプロセスでエネルギーを節約し、意思決定がスムーズに進むことを意味します。これによって、新しい働き方が組織のありたい姿を達成し、最終的により良いワークプレイスや組織になるために必要な習慣や相互理解についての深いく洗練された対話が可能になるのです。
