「AIはツールか、チームメイトか」─ この問いへの答えは、活動によって異なります。そしてその答えは、組織ごとにも異なります。AIの導入が加速する今、重要なのは「AIを使うかどうか」ではなく、「誰が・何を・どのように担うのか」を組織として定義することです。
1. 「効率化」の先にある問い
ChatGPTに代表される生成AIが日本で一般的なものになって、2年ほどが経ちました。多くの企業でAIツールの導入・試験運用が進み、個人レベルでの効率化は着実に広がっています。文章の下書き、会議の要約、情報の検索と整理 ─ こうした作業においてAIが時間を節約してくれることは、多くのビジネスパーソンが実感していることでしょう。
しかし、この問いに対しては、答えに詰まるかもしれません。
「あなたの組織の働き方は、AI導入前後で変わりましたか?」
AIツールを導入した。研修もした。利用率の数字も出ている。それでも「組織として何かが変わった」という実感は、まだ薄いのではないでしょうか。
この乖離には理由があります。個人の効率化と、組織の働き方の変革は、別の問いだからです。 前者はツールの問題ですが、後者は「誰が何をすべきか」という設計の問題です。そしてその設計を考えるうえで、Veldhoen + Companyが有効だと考えるのが"活動"のレンズです。
2. 仕事を「活動」で見るとどう見えるか
組織の仕事を捉える際に「役職」や「部署」で語ることは難しくないかもしれません。しかしAIと人の役割分担を設計するには、異なる捉え方が必要になります。
Veldhoen + Companyはアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)の実践を通じて、仕事を"活動"の集合体として捉えることを長年の基盤としてきました。一人のマネージャーの1日を見ても、高集中での資料作成、チームとのコワーク、1対1の対話、アイデアを温める思考時間、といったように、複数の異なる活動で構成されています。
重要なのは、活動によってAIとの親和性が大きく異なることへの気づきです。
3. 活動によって、AIの役割は変わる
AIはすべての活動を得意とするわけではありません。主に個人の作業として担う作業―例えば情報の検索・整理、文章の下書き、データの集計といった作業はAIが高い精度で支援できます。一方、メンバーとの対話、信頼関係の構築、チームのモチベーション管理といった活動は、現時点では人が主役の活動です。
「AIに任せられるか」は、ツールの性能の問題である前に、その活動の性質の問題です。活動ごとのを考えるとき、活動の定義が特に曖昧になる例としてアイデア出し(ブレスト)があります。
これまで、アイデア出しは“集団での活動”として定義していました。一方でAIと1対1で壁打ちしながらアイデアを深める作業は、一見「高集中」に近い個人作業です。しかし実際の脳の活動は、AIが問いを返し、人がそれに応じ、また問いが生まれる ─ という対話的なプロセスが生まれています。これは物理的には1人で行っているけれど、AIを“パートナー”として捉えるのであれば集団での活動になります。
さらに一歩進んで考えると、AIがチームの会議に参加者の1人として加わる場面も当たり前になりつつあります。議事録を取るだけでなく、リアルタイムで問いを投げ、選択肢を提示し、議論の流れに介入する ─ そうなったとき、私たちのふるまいは大きく変わるはずです。
発言の前に「AIにどう伝わるか」を意識する。AIのフィードバックを受けて議論の方向を変える。チームの意思決定にAIの"意見"が加わる。
これはもはやAIという「ツールを使っている」という感覚ではなく、会議に画面をオフにしているメンバーが1人参加しているという感覚が近いかもしれません。
従来、「1人で考える」と「チームで考える」の間には明確な境界線がありました。AIの登場によって、その境界線は溶け始めています。AIをどう定義するかは、単なる哲学的な問いではなく、組織のふるまいをどう設計するかという実践的な問いです。
4. AIがメンバーになるとき、オフィスはどう変わるか
AIの活用はオフィスの空間設計にも影響を与えます。AIとの音声対話(入力)が主流になれば、電話ブースのような音に配慮された個人作業スペースがより必要になるかもしれません。さらに先ほどのアイデア出しのように、”集中しながら”音声でAIとやりとりできる空間 ─ その数と質の重要性は、これまでより増すと考えています。
さらに、AIが会議の参加者の1人として加わるようになると、会議室の設計要件にも変化が起きるかもしれません。複数人がAIと同時にやりとりをする場面では、誰が何を発言したかをAIが正確に認識できる環境が必要になります。
個別の音声を識別できるマイクの仕組み、AIのフィードバックを全員が同時に確認できるディスプレイの配置、応答を自然に受け取れるスピーカーの設計 ─ 従来のハイブリッド会議よりもさらに緻密に計算されたミーティングスペースやIT設備が必要になるでしょう。
問いを立てるとすれば、こうなります。AIが会議の参加者になるとき、空間はどう応答すべきか。
現時点でこの問いに対する明確な答えはありません。ただ、オフィスの空間設計において「人のために何が必要か」だけを問えば十分だった時代は、終わりに近づいていると考えています。「人とAIが協働するために何が必要か」を問う段階に、少しずつ入りつつあります。
5. 経営層の最初のタスク:AIへのジョブディスクリプションを書く
人の効率化から始まったAI活用は、近いうちに組織としての問いに行き着きます。「私たちの組織において、AIは何を担い、人は何を担うのか」。
この問いに答えることは、実質的にAIへのジョブディスクリプションを書くことです。どの活動をAIに任せるか、どの活動は人が担うべきか、どの活動は人とAIが協働するか ─ それを組織として定義することが、AI活用を「個人の効率化」から「組織の変革」へと引き上げる起点になります。これは、会社としての方針が必要になる問いです。
その定義が固まって初めて、従業員に期待することが定義され、それに付随して働き方をどう更新するかという議論が始まります。つまり、働き方を構成する3つの要素-Behavior(行動)・Bricks(空間)・Bytes(テクノロジー)に必要な要件を定義することができます。
どんな行動規範を設け、どのような組織文化を醸成するのか、どんなオフィスを用意するか、どんなテクノロジーを組み合わせるか ─ これらは独立した問いではなく、連動した働き方の設計のための問いです。
ツールを導入し、研修を実施する。それだけでは組織の働き方は変わりません。変化を本物にするには、「AIに何をさせるか」を経営として定義し、それに応じて人の働き方を設計し直すというプロセスが必要です。
6. まとめ:「AIを導入するか」ではなく「人が何をすべきか」
AIを効果的に活用する方法を検討することは、自分たちの組織において「誰が何をすべきか」を定義するプロセスを持つことです。
AIが私たちの作業の大部分を担えるようになった時、人こそがするべき活動は何か、それは意思決定や行間を読むこと、信頼関係を構築することかもしれません。
活動の視点で仕事を見直し、AIと人の役割を設計し、空間とテクノロジーと行動規範を一体で更新する。その一連のプロセスこそが、AI時代における組織変革の実体だとVeldhoen + Companyは考えています。
FAQ
Q. AIと人の仕事はどう分けるべきですか?
A. 活動の種類によって異なります。情報整理・文章作成・データ集計といった作業はAIが支援しやすい一方、対話・信頼構築・チームのモチベーション管理は現時点では人が主役です。「全部AIに」でも「全部人が」でもなく、活動単位で設計することが有効です。
Q. AIの導入でオフィスはどう変わりますか?
2つの方向で変化が生じます。ひとつは音声入力の普及による個人作業空間への影響です。音への配慮が必要な集中スペースの重要性が増します。もうひとつはAIが会議の参加者になる場面への対応です。音声認識マイクやディスプレイ配置など、従来の会議室設計では想定されていなかった要件が生まれます。
Q. 経営層はAI導入にどう関わるべきですか? 「AIに何をさせるか」を組織として定義することが、経営層の役割です。これはAIへのジョブディスクリプションを書くことに相当します。その定義なしに現場にAI活用を委ねても、個人の効率化にとどまり、組織の働き方は変わりません。
Q. ABWとAIは相性が良いですか?
Veldhoen + Company が提唱するActivity Based Workingはもともと「従業員一人ひとりがより効率的に働くために、活動に応じて働く場所・方法を選ぶ」という考え方です。AIが活動ごとに異なる役割を果たすという視点と、構造的に親和性があります。AIの導入を機に、自組織の活動を見直す契機としてABWの考え方を参照することは有効だと考えています。

